エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 その時、客室乗務員の女性が速足でやってきて昴さんに話しかける。

 英語で早口だったので内容がわからず、うるさかったかな? とひやひやしていると、昴さんは顔を引き締めて立ち上がった。
 女性と一言二言交わすと、

「急病人だ。話の続きはあとで」

 と言って、駆け足で行ってしまう。
 それを見て、仕事をしていたときに聞いたことを思い出した。

 最近は機内のアナウンスじゃなくて、先に医師として登録しておくらしい。いざというときに、声をかけていいと。

 昴さんは旅行しててもどこにいても医師だ。わがままを言っていても、すぐに顔も意識も医師に切り替わる。だから彼にとって患者が一番だと思っていた。

 ただ、そこは揺るがないのに、彼に優しく強く抱かれたせいで、一人一人の患者に真摯に向き合う彼の根底にも、自分の存在がなんとなく残っている気がしてしまう。

 それが恥ずかしいくらい独りよがりな考えだと分かっていても、不思議とそう感じるのをやめられなくなっていた。
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