エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 昴さんは食べながら言う。

「香澄、ひとりでもちゃんと食ってるのか」
「はい」

 嘘だった。それを見透かしたように昴さんは苦笑する。

「……昔から嘘つくときのクセが一緒だよな」
「えっ……なんですか癖って。どんなのですか?」
「ほら、嘘だった」

 なにその罠みたいなの。
 むっとして昴さんを見ると、昴さんは困ったように笑う。

 事故で味を感じなくなってから、私は食べるのが楽しくなくなって、あまり食べなくなっていた。
 何を食べてもおいしくない。チョコレートなんて特に最悪だった。

 それでも、昴さんと一緒に食べる食事はやっぱり別で……
 私は昴さんの作ってくれたナポリタンを一口食べて、本当はどんな味なんだろう、と想像していた。そう考えることが楽しみだった。

 それに、私は自分の味覚なんかより、病院が、昴さんが、大事だったんだ。
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