エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
「お願いだ」
香澄の涙を指先で拭ってもう一度念押しするように言うと、少しの沈黙の後、香澄はコクンと一度頷いた。
「いいのか?」
もう一度彼女が頷く。
顎に手をかけ顔を上げさせると、目も、そして顔も真っ赤にして俺を見ていた。
思わず強く抱きしめてキスを交わそうとしたら、香澄が慌てて身を捩った。
何かと思ったら、病院のスタッフがこちらに向かって来ていて、そんな場面を見られてしまった。
スタッフが去った後、彼女は怒った顔をして俺を睨む。
昔から言葉がなくても、考えていることがわかりやすいなと思って笑ってしまうと、彼女はさらに顔を赤くして黙り込んでしまった。
かわいくて、つい額にキスをすると、怒りながらも口元を綻ばせた彼女はやっぱりかわいいな、と思ってしまう。
いつのまにかすっかり香澄に嵌っている自分を何度も自覚した。
大阪から東京までは帰りの便のスタッフの気遣いで飛行機を手配してくれていた。
飛行機に乗り込んでからも、香澄は何かを考えて黙り込んでいる。
それでも香澄の小さな手を握ると、彼女はきゅ、と握り返してくれて、少しでも自分の気持ちがきちんと彼女に伝わっていることをただ願っていた。