エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
先に目的地を一之宮総合病院にして、病院に着くなりすぐ、昴さんはタクシーの運転手さんに十分すぎるほどのお金を渡す。
そしてタクシーを降りると、後部座席に身体を乗り出して言った。
「おつりはいいので、彼女の自宅にそのままお願いします」
「えぇっ、寄り道しようと思ったのに」
「だめ。じゃ、住所ちゃんと言うんだぞ」
「わかりました」
子ども扱いしないでよ。まだ学生だけど、もうハタチだ。
そう思ったとき、ふわっと優しく髪を撫でられる。
驚いて顔を上げると、白い歯を見せて彼は笑った。
「今日は助かった。また頼むな」
「またって……もうこんなのに巻き込まれるのはごめんです」
「ハハ」
全然反省してない顔で彼は笑って、そのまま走って行ってしまった。
行先を伝えてタクシーが走り出しても、走って行く彼の後ろ姿を最後まで見つめていた。
ただ昴さんの都合のいいように利用されているってわかっていても、二十歳の私は、それでも彼が好きだった。