エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
「仕方ないだろ。消える前につけてしまうから増えるしかない」
「妹のそういう話を兄が聞きたいと思うか」
「すまない」
「謝罪はもう少しすまなさそうな顔をしろ」
「ハハッ」
神也の怒った言い方に思わず笑ってしまうと、神也はため息をついて俺を見た。
「お前、本当よく笑うようになったよな。昔は香澄の前だけだったのに」
「そうか?」
そんなこと気づかなかった。そもそも笑っていたか?
昔の自分は病院ばかりで、感情なんてないほうがいいとすら思っていたんだから。
「そうだよ、昔からお前は香澄の前だけよく笑う。香澄にだけは人間らしい顔を見せる。だからお前の気持ちは、お前が気づくより前から俺はわかってた」
神也は神妙な面持ちで続けた。
「それでも昴はそういう人間らしい感情に全部蓋して、病院にしか向き合ってなかったから……。俺は香澄とお前がどうこうなるのがいやだったんだよ。いくら香澄がお前のことを好きだってな」
「…………」
神也が言う通り、俺が自分の気持ちを自覚する前から香澄のことが好きだったなら、一体いつから彼女を好きになっていたんだろう。
分からないくらい昔であっても、そんな自分の自覚のない好意にやけに納得できてしまう。
香澄を好きだと自覚してから、当たり前のようにそれが俺の中にすでに大きく深く根付いていたような感覚があったからだ。