エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 考えてると、正司先生は繕うように言う。

「辻中さんとのことは秘密にしていてほしいと香澄さんから言われてたんだ。特に昴くんにはね。だから彼女も言わなかったんだろう」
「何故ですか?」
「心配をかけるのも、負担をかけるのも、嫌なんだろうね」

 それを聞いて、歯痒く思う。
 負担だなんて思うはずないのに。

「ニ年かかったが、辻中さんは最近やっと自分のことに向き合うことができてきて、あの時のことを話してくれたんだ。それで辻中さんが、香澄さんが昴くんに何も話していないことを知って、あの時のことを昴くんに話しておいてほしいと言ったんだ」
「俺に? なんで?」
「辻中さんなりの反省だろう」

 二年前のこととは、香澄が辻中さんが落ちそうになったのを、助けようとしてヘマして階段から落ちたと言ったあの事故のことだ。
 反省、という言葉に緊張して耳を傾ける。

「辻中さんは昔から精神的に不安定で、七年前にたまたま病院で見かけた君に固執した。それを君は香澄さんが好きだと言って振った。そこまでは分かってるね」
「えぇ」

 もうあれから七年も経つのか。
 香澄はあの時二十歳になったばかり。

 香澄のことは妹みたいに可愛いと思っていたけど、年齢差もあって、女性にしつこくつきまとわれたときに香澄を都合よく使った。
 香澄は年齢より少し幼く見えたし、ロリコンだと思われると相手も一発でひいてくれる。

 もちろん香澄のことは可愛がってはいたつもりだが、それ以上に仕事以外の面倒ごとは避けたかった気持ちも大きかった。

 しかし、あのとき、香澄が鞄で叩かれそうになって思った以上にヒヤリとした。
 それから香澄に彼女役は頼まないようになったのだが。

< 177 / 219 >

この作品をシェア

pagetop