エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
「それが本当なら、俺はどうしても辻中さんに対して怒りを感じてしまいます」
「当然の感情だが……厳しいことを言えば、最初からこの件に香澄さんを巻き込むべきじゃなかった」
「そうですね。そのことはずっと後悔しています」
「そして、そういう思いもキミにしてほしくなかったから、香澄さんは口を閉ざしたんじゃないかな」
それから香澄は辻中さんに何度か無理やり会いに行って、正司先生に辻中さんを引き合わせたらしい。
そのおかげもあって、辻中さんは今は落ち着いてきたみたいだ。
「香澄は優しいですよね。俺が香澄の立場ならきっと許せないのに」
「本人は『優しいわけじゃなくて、病院に辻中さんの怒りの矛先を向かせたくないだけ』だと言っていたよ」
「病院に……」
「あぁ。香澄さんが大事にしていたのは、昴くんが大事にしてる病院のことだけだった。他のことは彼女にとっては些細なことだったんだろうね。たぶん味覚のことさえも。香澄さんと話していて私はそう感じたんだ」
俺が病院だけを見ていた時もずっと、彼女も同じ方向を向いてくれていた。
子どものことにしても、自分の感情より先に病院の後継ぎのことばかり気にしていた。
それに気づくと、ぐっと奥歯を噛み締めてしまう。
「夫の仕事を支えるいい妻かもしれないが……もう少し男としては頼ってほしいよなぁ」
正司先生の言葉に思わず頷いて、香澄の顔を何度も思い出していた。