エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 食べ終わって少しもしない間に、昴さんのスマホが鳴る。
 昴さんは一言二言話すと席を立った。

「すまない、急患だ。行ってくる」
「珍しいのね?」
「今日は濱野先生が出張でな」

 玄関先まで先ほど起きた香菜を抱いて連と見送りに行くと、昴さんは振り返り、そっと私の頬にキスをする。

「あー、また!」

 連が怒ったように言ってるのに、昴さんは私の耳元に口を寄せた。

「続きはまた今夜、な」

 それを聞いて、連が首を傾げる。

「つづきって?」
「す、昴さん⁉」

 またいらないことを!
 そう思ったら、昴さんは連と香菜の額にも優しくキスをする。

「行ってきます。連も、香菜も行ってくる」

「いってらっしゃい」
「パパがんばってね」

 私と連が言うと、昴さんは白い歯を見せて笑って……
 それからまた名残惜しそうにもう一度みんなにキスをすると、くるりと背中を向けて病院に足早に向かった。

 私は今も大好きなままの夫の大きな背中が見えなくなるまで、ずっと見送っていた。

(完)
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