エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
クリュニー・ラ・ソルボンヌ駅のすぐそば。
クリュニー中世美術館はそこにあった。
外観だけでも、その名のとおり中世に迷い込んだように感じられる大きな建物。
中に足を踏み入れて息を思いっきり吸いこんでしまう。うん、匂いもいい。
彫刻やステンドグラスを一通り見て回って、ゆっくり階段を上った。上って奥の薄暗い丸い一部屋。
入ってすぐ感嘆のため息を漏らしてしまう。
(これがなぜかずっと気になってたんだよね)
「すごい……」
そこには、6枚の傑作が壁一面に並んでいた。
薄暗い部屋の中のはずなのに、赤と青がまぶしい。
ユニコーンと貴婦人の描かれた6枚の連作タピスリー。
5枚は「視覚」「聴覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」の意味だという。
そして6枚目「我が唯一の望みに」。
隣で昴さんが呟く。
「唯一の望み?」
「はい」
「どういう意味?」
「それが、まだ専門家も答えを見つけられていないそうなんです。答えのない絵で」
侍女が持っている小箱から、貴婦人が首飾りを取り出そうとしているような絵は、逆に、箱にしまおうとしているようにも見えて、その解釈に正解はないそうだ。
それでも私はこれを直接見たら、きっと何が一番大切か、よくわかる気がしたんだ。
(やっぱり直接見られて良かった。決心は固まった)
「ここにこれて、よかった。ありがとうございます」
「……唯一の望み、か」
昴さんは呟いて、私の手をそっと握る。
こんなところまで来て固まった決心を揺れ動かしてしまいそうな手に戸惑ってしまう。
それでもやっぱり振り払うなんてできなくて、おずおずとその手を握り返した。