エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
それから、ルーヴル美術館は明日にしようと決めて、オペラ座で一緒にオペラを観たり、街を散策したりして、すぐに一日は過ぎた。
夜はホテル近くのレストランに行って、先にワインを頼む。
ワイングラスを軽く合わせて、「乾杯」と言うと、二人で同時に口をつけた。
乾いた喉にグイ、と入れてしまう。
グラスを置いた時には、すでに気分がふわふわし始めていた。
「昴さんとお酒を飲むの、初めてですね。私が初めてお酒をのんだ日だって、昴さんノンアルコールだったし」
「よく覚えてるな、そんなこと」
覚えてる。昴さんとしたことは全部。
全部私の宝物だ。
私はふわふわした勢いで聞いていた。
「あれから、彼女役、頼まれなくなりましたね」
「あのときになって、香澄に怪我させてしまったら一生後悔するだろうなって思ったから。もっと早く気づけばよかった」
あのときの昴さんの優しさを知る。
いや、私はもっと前から知っていたはずだ。
彼は意地悪なのに、優しい。
「カバンで叩かれるくらいは平気ですよ。私、こう見えて頑丈ですし。昴さんも知ってるでしょ?」
私が微笑むと、昴さんは少し困った顔で笑った。
ほんとはね、私はあの彼女役、必要な日のたった1日だとしても、ずっとやっていたかった。
それもあって、私は昴さんが提案してくれた『期限付きの契約結婚』なんて提案を受け入れたんだから……。