エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
そのころの私にはもうはっきりわかってた。
昴さんの一番大事なものが何か……。
それは、あの一之宮総合病院だ。
だから私は、当たり前のようにそこで仕事をして、少しでも病院の助けになりたかった。
勉強ができただけって言ってたけど、きっと兄だって同じように思ってたと思う。
私たち兄妹がそうしたいと思うくらい、昴さんは彼の持つすべてを病院に捧げてた。
全てが病院中心。近くで見れば見るほどそれが分かる。
女の人が面倒だと跳ねのけているのも、病院以外で時間を取られたくない気持ちも大きいと思う。それほど彼は自分の時間をすべて、病院の診療に充てていた。
(昴さんが大事に思ってるなら、私だって大事にしたい)
もちろん子どもが好きで保育士と幼稚園教諭の免許は取ったけど、実際にそれを活かした就職先を選んだきっかけは、間違いなく邪念の塊。
それでもずっと長く彼のことだけが好きだったからか、私が一之宮総合病院で病棟保育士になるって決断を伝えた時も、兄は、驚いたとは言いながら、納得したみたいだった。
「何か困ったことがあれば言えよ」
「うん」
「そうだ、デザートに新しくできた駅前のベーカリーでマロンクリームパイ買ってきた」
「やった! 甘いもの食べると、元気になる」
私と兄は食後だというのに、デザートまできっちり食べ終えた。