エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
「香澄」
次の日の朝、出勤して、小児科にあるふれあい保育ルームに着く直前、昴さんに呼び止められた。
私はドキドキしているのを気付かれないように、冷静な声で返事をする。
「なんですか」
「今日の夜、ちょっと付き合え」
「えぇっ……」
思わず非難するような声を上げてしまう。
実際は少し嬉しい気持ちが混じっていた。
昴さんは眉を寄せる。
「なにか予定でもあるのか? ないだろ」
「決めつけないでください。私にだって予定くらいあります。兄さんの食事の用意したり、家事したり……」
「今日は神也も夜勤だろ」
「そう言えばそうか」
ふと思い出して、それから金曜なのに予定なんて全くないことに気づく。
それはそれで、二十二歳の女性としてどうなんだろう。
昴さんは私の頭を軽く叩いた。
「うまい飯でもおごってやる」
「……今日は誰を振るんですか?」
いぶかしげに聞くと、昴さんは苦笑する。
二年前の五人目からなくなったけど、いつこの人はそういうことをやるのか分からない。
これまでも病院内では話しかけられたり、ちょっかいを出されることはあったけど、外に誘われたことはなかったし。
「今日はそういうのじゃないから」
「本当ですか……?」
顔を覗き込むように見ると、昴さんはまた苦笑いする。
そのときになって、昴さんの顔に元気がなさそうなことに気づいた。
「信用ないな。香澄の顔見ながら飯食いたいって思ったんだ」
急にそんなことを言われて、どぎまぎしながら、いいですよ、と返した。