エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 去っていく昴さんの後姿を見つめながら、どうしたんだろう、と首をひねる。

「昴先生、やっぱり元気なさそうだったわね」

 その時、小児科の看護師長に声をかけられた。
 師長を見ると眠そうな顔をしていることに気づいて、その上で質問攻めにしてしまう。

「お疲れ様です。昨日は師長も帰れなかったんですか? やっぱり元気なさそうって……救急でなにかあったんですか?」
「うん、昨日は私も救急の応援してたのよ。五日前、西寺総合病院が医師不足で救急の受け入れしなくなったの知ってるでしょ」
「はい」

「そうなるとより遠い場所から、他の病院に受け入れ要請が来るんだけど……うちなんて特に要請が来た時点で何個も断られてるから、時間の問題がやっぱり大きくて」
「あの辺りからなら、いくら急いでも一時間半はかかりますよね。朝や夜はもっと」

「そうなの。昨日運ばれてきた患者さん、まだ小さなお子さんだったんだけど。倒れてから時間がたちすぎてて、どうやっても助けられなくてね」

 誰が亡くなっても心が苦しくなるが、やはり子どもが亡くなった話は、聞くだけでも心が締め付けられるように痛い。
 昴さんはそんな場面に毎日立ち会ってるんだ……。

「最近そういうのが続いたから、さすがの昴先生も落ち込んでるみたい」
「ですよね。私なら普通に勤務もできなくなっちゃう」

「そもそも働きすぎなのよね。昨日は、自分がリフレッシュすることも考えなさい、って説教したんだけど」
「そうなんですか……」

 やっぱり昴さんは優しい。
 本人はあまり見せようとしないけど……。

 兄と少し似てる。二人が仲が良いのも、その辺りなのかもしれない。

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