エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む

 せっかくだから楽しく過ごしたかったのに。

(あんなこと言ってしまった私が悪いんだけどさ……)

 手持ち無沙汰で、肩まである自分のベージュブラウンの髪を指に軽く巻きつける。
 それから、またチラリと彼を見た。

 飛行機に乗り込んでからも、どうも声をかけづらい。
 なにを話していいのか分からないし……。

 その時――。

「香澄」
「な、なんですか? ……っ!」

 大きく温かい手で、そっと頬に触れられる。
 慌てて身をよじると困ったように苦笑された。

「そんなに怖がらなくても、とって食いはしないさ」
「わ、わかってます」

 かわいげもなくそう返すと、昴さんはじっと私を見ていた。
 いちいち彼の視線にたじろいでしまう。

「な、なんですか……」
「そんな顔をしているから誤解されるんだ」
「そんな顔って?」
「その顔だ」

 意味がわからない。
 私が首を傾げると、昴さんは手を差し出す。

 余計に意味がわからないでいると、優しく手を取られた。
 驚いて固まれば、さらに私より大きくて長い指を指の間に這わされる。

「より新婚ぽいだろ?」

 目を細め、意地悪く微笑まれるとどうしていいのかわからない。

(手の汗が凄い。どうしよう……)

 昴さんの大きな手で握られてるだけで汗が止まらない。

 どうにか手を離すタイミングを見計らっていたのだけど、そうすればするほど、離す気はないと言わんばかりに手の力は強まっていくのだった。
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