エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
「そっか」
「すみません、お忙しいのに私のことまで」
「いや……」
優太先生が手を横に振り、それから小さく息を吸って口をもう一度開く。
「あのね、昴先生のことなんだけど」
「はい」
「香澄ちゃんは昴先生と付き合ってるんじゃないんだよね?」
何度かこの手の話題は振られたことがある。
というのも、昴先生があまりにも仕事にストイックすぎて、仕事以外で女性と普通に話しているのが私だけだからだと思う。
「はい、つきあってません」
ただ、私たちは三年前、キスこそしたけど、あれからそういうことはなく……。
さすがにあの触れるだけのキスもきっと時効を迎えているのだろうと思っていた。
もちろん、好きだとか、付き合おうとかそんな言葉もない。
あれから変わらず、昴さんは時々仕事の合間に私に話しかけにきたり、そして時々ご飯を一緒に食べたりするだけの仲だ。
「でも……私が一方的に好きなんです」
そんな関係でも私は良かった。
むしろ嬉しくもあった。
ただ昴さんの近くにいる実感の持てる関係で。
彼の目には今だに病院しか映ってないから、ただそばにいられるだけで良かった。
良かったのだけど……。
これからは、そばにいることすら難しくなる。
彼のいる病院から離れることは胸が張り裂けそうなほど辛い選択だったけど決めたのは……
病院の、そして彼の足を引っ張るのが嫌だったからというのも大きい。