エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
8章『11か月前』昴side

 深夜に運ばれてきた患者の緊急オペ。気付いたら朝になっていた。
 こんな日が三日続き疲れがピークに近くて医局で眠ろうと思ったが、この一か月は少しの時間でも足が病院の外に向く。

 15分のタクシーの中で仮眠して、着いたところですぐに目が覚めた。

 少しの気のゆるみがその人の人生を大きく変えてしまうことが分かっているからこそ、気の抜きどころが分からなかった。
 
 祖父や父はとても厳しい人で、昔から当たり前に自分の肩にのしかかる責任の話は何度もされてきたし、自分もそれに続かないといけないと必死にやってきたつもりだ。

 ただ気を抜かず、病院のことだけを考えて毎日コマを進めて来ただけ。だからこそ、気付くと自分には病院以外何もなかった。

 祖父も父も同じように病院ばかりで、祖母も母も息子を産んでから、責任は果たしたとばかりに出て行った。それでも自分は祖父や父の気持ちもよくわかった。

 他に目なんて行かないくらい重い荷物だ。だから自分だって、同じように病院とそこにくる患者のことだけを考えよう。

 ずっとそれだけでいいと思っていたが……。
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