エリート脳外科医は離婚前提の契約妻を溺愛猛攻で囲い込む
俺は声をかけてきた神也に向かって口角を上げる。
「兄さん」
「マジでやめてくれ……頭が痛くなる……」
頭を押さえた神也は、少しすると顔を上げ、俺をじっと見つめた。
「……お前、まさか香澄に手なんて出してないだろうな」
「夫婦だぞ? 手を出して何が悪い」
「昴っ」
焦ったような表情に苦笑する。
「嘘だ、手は出してない。約束しただろ。香澄が治るまではって」
俺が“1年の契約結婚”なんてとんでもない提案を香澄にしたあと、事後報告で神也に話した。
神也は絶句して、それから聞いたこともない低い声で、『たとえ一年の期限があったとしても、香澄が治るまでは絶対に手を出すな』と言った。
足の骨折はこれからリハビリも必要で……。
そして、味覚の問題は、まだ解決の糸口すら見えていない。
それでも俺は兄として妹を守ろうとするその言葉に頷いた。