内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
つられ笑いをしてくれない堅物の兄は、無言で立ち上がると玉のれんを潜って台所へ行く。

果歩のために温かい煎茶を淹れてくれて、近所のケーキ屋のショートケーキと一緒にこたつテーブルに置いてくれた。

「ケーキだ。買ってきてくれたの?」

「お前の分だけな。チビたちにはまだ早い。あいつらにはいつものベビーせんべいを買った」

「ありがとう! いただきます」

座ってケーキを口に運ぶと、生クリームのとろける甘さに疲れが癒された。

苺の酸味を楽しみ、ふわふわでしっとりしたスポンジの食感に頬を緩ませ、煎茶をすすって小さな幸せの吐息をもらす。

このケーキ屋は果歩が生まれる前からある。

雑誌に載るような人気店ではなく、クリスマスの時季しか混んでいるのを見たことがないけれど、果歩はここのショートケーキが大好きだ。

子供の頃は記念日や頑張ったご褒美に母が買ってくれて、その時の想いでも一緒に味わっていた。

角を挟んだ隣に座る兄が、美味しそうに食べる果歩を見ながら真顔で言う。

「お前がやりたい仕事じゃないなら、今は無理して就職しなくていい。俺の収入だけでやっていけるだろ。焦るな」

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