内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
製薬会社に勤めている話は聞いているが、社名を教えてもらっていない。

具体的にどんな仕事内容なのかも知らず、三十二歳という年齢だけのイメージで主任か係長くらいの立場ではないかと想像していた。

交際してひと月ほど経った頃、仕事終わりの彼とイタリアン居酒屋で待ち合わせて食事をしたことがあった。

その時、彼は疲れた顔をしていたので、果歩は心配した。

『大丈夫ですか? 今日はあちこち出かけてのお仕事だったんですか?』

想像したのは病院やドラッグストアに薬の紹介や売り込みをする営業職だ。

しかし彼は『会議が複数あっただけ。別にいつものことで疲れてないよ』とニコリとし、すぐに話題を変えた。

『果歩がこの前勧めてくれたノンフィクション小説、読み終えたよ。科学的な推理が面白かった。果歩はどんなジャンルの本でも紹介できるの?』

『はい。なんでも』

『すごいな。一体、今まで何冊読んだんだ?』

卓也は果歩に関することはなんでも知りたいようで、これまでに読んだ本や職場での出来事、友人関係やどんな子供時代を過ごしたのかまで問われたことがあった。

その一方で自分については話さない。

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