内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
果歩の頭の中はまだ鐘の音が響いており、客よりもニヤニヤしているからだろう。

気味悪そうな目を向けられても果歩の意識はそこに向かず、代金を支払った男性客は雑誌を片手に逃げるように店を出ていった。



時刻は十七時半を回ったところだ。

「お疲れ様です。お先に失礼します」

レジカウンターにいる店長とアルバイト従業員に挨拶し、果歩は書店を出た。

雨は変わらずしとしとと降り続けているが、今は偏頭痛も忘れ、前髪がうねるのも半袖Tシャツとガウチョパンツが湿るのも気にならず折り畳み傘を開いた。

雨がテーマの有名な洋楽を鼻歌で歌い、大通りを歩きだそうとしたら、見知らぬ男性に進路を塞がれた。

紺色のスーツの男性は暑いのにジャケットまでしっかり着込み、細身で狐目、細縁フレームの眼鏡をかけていて四十歳くらいに見える。

「相原果歩さんですね?」

真顔で尋ねられて戸惑いつつ、果歩は返事をする。

「そうですけど……」

(誰だろう。書店のお客さん? でも、常連でもない人にフルネームを覚えられているのはおかしいし、声のかけ方も変)

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