内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
不安で泣きそうなのを、唇を噛んで耐える。

十数秒して兄の深いため息が聞こえた。

恐る恐る顔を上げると、やれやれと言いたげな目をした兄がほんの少し微笑んでいた。

果歩は子供の頃を思い出す。

小袋の醤油を自分で開けると言い張って兄の手助けを拒み、失敗してお気に入りの洋服を汚してしまったのは五歳の時だったろうか。

その時の兄も今と同じ顔をして、洋服の染み抜きをしてくれた。

八歳の時にはひとりで電車に乗れるからと兄の付き添いを断って外出し、路線を間違えて迷子になった。

泣きべそをかいていた果歩を探し出してくれた時の兄も、やれやれと言いたげにため息をついて、『もう大丈夫だから、泣くな』と抱きしめてくれたのだ。

優しい目をした兄が果歩の頭にポンと手を置いた。

「まったく、世話の焼ける妹だ。まともな男かどうか見定めてやるから連れて来いと言ったのに、言うことを聞かないからだぞ」

(お兄ちゃんなら、卓也さんの不誠実さを見抜けたのかな)

「ごめんなさい」

「今さら言っても仕方ないよな。帰ってこい。お前と子供の面倒くらい、俺が見てやる。ずっとここで暮らせばいい」

「お兄ちゃん! ありが、と、うっ……」

ホッとして涙があふれ、兄にすがるように手を伸ばす。

母が亡くなった時以来、五年半ぶりに抱きしめてもらい、しばらく腕の中で泣かせてもらった。
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