内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
時刻は夕食時で、この後、椿姫を食事に誘えと母に指示されたが、卓也は無理だと断って席を立った。

「まだ仕事中ですので、失礼します」

素っ気ない態度の卓也に母が文句を言ったが、腹を立てているため無視して退出した。

エレベーターホールへと急ぎ足で向かいつつ、ふと疑問を覚えた。

(椿姫さんが母に会ったのは先々月――六月だと言っていたな。その翌月に俺は果歩にフラれてフリーになった。俺と椿姫さんを結婚させようと目論む母さんにとって随分と都合のいい展開だ。『椿姫さんも今、交際しているお相手がいないそうよ』とも言っていたな。なぜ俺に交際相手がいないのを知っているんだ。まさか……)

誰も通らない重役のフロアの廊下で、立ち止まった。

母が果歩に別れるよう陰で接触していたのではないかと疑い、思わず口角が上がった。

果歩との別れは仕組まれたことで、果歩の気持ちは今でも自分にあると期待したからだ。

その直後に己の愚かさに呆れて、ため息をついた。

(なにを都合のいいように考えているんだ。いい加減にフラれた事実を受け止めて、果歩への未練を断ち切らなければ)

熟考が必要な業務が山積している現状がありがたい。

仕事に打ち込むことで果歩を忘れようと、卓也は足を前に進めた。
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