内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
各々の席が固定でないのはワクチンを共同開発している相手企業や研究室に出向する社員、テレワークの者も常時いるからで、部署の総員は四十六名だ。

卓也の席も皆と同じにしている。

現地で雇った社員が三分の一を占め、部長デスクを設けない方がコミュニケーションを取りやすいと感じている。

(キャンベル博士にアポイントが取れてよかった。やはり共同開発をしているこっちの企業名を出したら話が通りやすい。協力を得るために、話題のストックを十分に用意しておこうと思ったが……難解だ)

卓也が眉間に皺を寄せて読んでいるのは、権威ある分子生物学者の論文で、英会話に長けていても学術用語だらけの文章にはなれていない。

ノートパソコンの画面に集中していると、隣の席から声をかけられた。

「タクヤ、話があります」

ネブラスカ州の出身で二十六歳の青い目をした彼の名は、クレイ。

こちらではファーストネームで呼び合うのが一般的だ。

卓也もこの部署に来た初めの挨拶で、皆にタクヤと呼んでほしいと提案した。

クレイが差し出したのは有給希望を書いたメモ用紙だ。

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