内緒の双子を見つけた御曹司は、純真ママを愛し尽くして離さない
気にするなという意味で片手を上げ、視線を論文に戻したが、クレイにまた呼ばれた。

「このビルを牛に占拠されてもタクヤは仕事を続けるんでしょうね」

「牛?」

「ただのジョークですよ。馬でもひよこでもいいんです。僕が言いたいのは、終業時間なのでタクヤも帰ったらどうでしょうということです。あなたが残業すれば、僕らが帰りにくい」

腕時計を指先で叩くクレイは肩をすくめて見せ、卓也は十八時を過ぎていることに今気づいた。

重要な商談前には準備を完璧に整えておきたいし、どんなイレギュラーな問題が発生するかわからないので、仕事はなるべく早めに片づけておきたいのが卓也の考え方だ。

それを真面目過ぎる日本人気質だと他の者から指摘されたことがあり、以降はなるべく急がず柔軟な姿勢を取るよう心掛けている。

オフィス内を見回すと、クレイの言葉に頷いている社員が数人いた。

(また悪い癖が出てしまったな。真面目もほどほどに。皆の士気が下がらないようにしないと)

「オーケー。今日はここまでだ。みんな帰ろう。お疲れ様」

全員を帰宅させ、卓也が最後にオフィスを出る。

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