陰黒のプシュケ

守護心ともうひとつの強い念

「…お父さん、それって…⁉」

「ああ、お父さんをはねた車な、隣町の交番のOBが運転してたんだが…、その事故の翌年、全く同じ日に首を括って亡くなってた。後年聞いた話じゃあ、末松家の額縁に収まってる顔写真が夢に出てくるって…、元おまわりさんは家族に話していたようなんだ。まあ、自殺した原因はその夢でノイローゼになってって…、家族はそう捉えていたと思う」

”お父さんは、あの時、額縁に収まっている先祖は子孫の守護霊だけど、どちらかというと、守るというよりも末松家の子孫に禍をもたらす者を懲らしめるというエネルギーの発し方じゃないかって言ってたっけ。じゃあ…、夕べのあの展開って…⁉”

壮絶極まる驚愕の恐怖体験から半日…。
穂里恵の”総括”は、あの闇間の攻防に関しては核心へと迫っていた。

彼女のざっくり感で推し量れば、どう考えてもあの闇の中に現れ出た死霊と思われる4人(4体?)の霊力は極めて強いパワーを持っていたと断定できた。
いや、最強レベルの域だろうと…。

これは、”それら”と接近遭遇したほかならぬ当事者としての肌感から導かれた確信でもあったのだろう。

***

であれば…、その強いエネルギーを有した、実質複数の死霊たちを”退散”させた父の祖先たちは、それらと同等か上回る力を発っしていたのかと…。

この自らへの問いかけには、さらにもうひとつの記憶がヒントとなる。
それも、小学校高学年の頃に群馬のいなかへ泊まりに行ったとき、祖父から語られた話であった。

「…いいかい、穂里恵。なんで、かわいいお前をあの部屋に泊まらせて、額縁の下で寝かせるのかって言うとな、14人の先祖にも、しっかりお前のことをかわいい血の繋がった娘だということを、十分に伝えたいからなんだが、でもな、いざとなったら先祖は助けてはくれるだろうが、それには、まず呼び寄せないとな。穂里恵、本人がな」

「でも私…、14人のご先祖様には会ったことないし、お名前も知らないよ。どうやって呼べばいいのかな?」

「ハハハ…、もしも穂里恵が命にかかわるようなことになれば、助かりたい気持ちをずっと唱えていればいいんだ。その気持ちは絶対に、最後まで捨てちゃいけない。それがご先祖に伝われば、穂里恵と一緒に戦ってくれるから」

「そうか!うん、わかった。穂里恵も助かりたいと思わなかったら、ご先祖も遠いところにいるから、気づいてくれないんだよね?」

「そうだよ。あそこのお庭に植わってる石堀りの動物像はな、穂里恵が何か困ってても頑張ってれば、天にいる先祖たちに伝えてくれる通信装置みたいなもんなんだよ。これもこの家が代々、大切に引き継いできたものでな」

「じゃあ、この家はずっとそのままにしてないといけないんだね?」

「はは…、穂里恵のお父さんには、おじいちゃんとおばあちゃんが死んでも、しばらくはこの家はそのままにしておくように言ってあるから。もし、お前が大人になって、お父さんが家を壊したり人に売ったりしようとしたら、ダメだよって言ってくれな」

「うん!大丈夫…。私、絶対に言うよ」

”そうだよ…‼夕べ、あの陰鬱な2層の闇間では、末松家の先祖様と私が一緒にあの死霊たちと戦ってたんだ!夢中だったから、群馬の額縁のことは思い出せなかったけど、先祖様たちは私のことを覚えていてくれてたんだよ…”

穂里恵は一種、深い感慨に浸っていた。
さらに…。

”昨夜、バリバリって音がした後、もうあの闇はおじいちゃんちに移動していたのかもしれない。あの時私は群馬の家にいたんだろう…”

その群馬の末松家は、穂里恵の祖父母が他界して3年ほど経過していたが、この時はまだ空き家として存在していた。

これから数ヶ月後、穂理恵は父と二人で未樹雄の生家へ赴いた際、居間の額縁数枚が粉々に割れて床に落ちていることを穂里恵はその目で確かめることとなる…。

そしてこの週の日曜日…。
穂里恵は父と母の前で、闇の中へ連れ込まれたその夜のことを告白する…。


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