陰黒のプシュケ
四つのカタマリ
異様に歪んだまっすぐな信念…。
それは4つのカタマリとなって、ついに旅立ちの時を迎えようとしていた。
彼らのおぞましく陰極まる”儀式”の舞台となる陰沼は、この夜、深い霧に覆われていた。
深夜2時前…、決死の覚悟を共にした4人の男女は、手漕ぎボートで沼のほぼ中央にいた。
「…じゃあ、オレは左腕を切る」
「私は左足を…」
「オレは右足…」
「私は右腕ね…」
4人は輪になって、小声でそう確認し合った。
「まずは、この睡眠薬を3人が飲んでくれ。オレは30分後に服用する。君らが眠りについたら、電動で各部位を切断し、オレも…。その後、土嚢袋へ石と一緒に詰め、沼へ沈める。間髪入れずに、この鎖でつないだ4人のカラダはこのいかりで沼底へ…」
「…」
浦田ノブトの短い説明に、ほかの3人は無言のまま、静かにうなずいた。
4人を包む静寂の中、彼らの息継ぎは確かに発せられていた。
この世を生きるには欠かせない心臓を巡らせる証…。
だが、間もなくこの4人の若い気男女には、おぞましい憎念と真逆の純朴な希望とを交じり合い、究極の絶命行為にもう迷いなど存在しなかった。
***
「…我々が挙行を終えた後の次第は、堀切さんにお願いしてある。彼女がリバイアサンズの主旨を以ってコトを運んでくれれば、あとはいい。きっとこの世は変わるよ。人類をだまし続け、搾取したクソなエゴスキームは消去する。それに入れ替わり、新しい光が生まれる…」
「その一助となるのね、私たちの今夜の血行は…」
「そうさ。まさしく己の血にまみれ、言語に堪えない痛みと苦しみに貫通されながら、団塊となる。4人は肉体を切り離した、ゆるぎない永遠の意思を合体させるんだ」
「それは最強のものになるわね」
「ああ、4人で願おう。いや、願い続けよう…、この沼底で」
「そして甦るのねよ、団塊となって…。新たな肉体の一部を偽善者たちから奪取して…」
ここで4人は湖畔の四辺井戸がある方向へ顔を向け、霧に閉ざされた闇間にしばし視線を送った。
***
「ぎゃーー‼」
「うぉーー‼」
「ぎゃああ~~‼」
午前2時20分過ぎ…、狂った儀式は濃霧に目隠しされるように、大量のどす黒い血で闇を塗りたくり、阿鼻叫喚の中、ある種の厳粛さを伴って決行された。
”ジャポーン…!”
そして…、4人がその肉体を倍の数にして沼の中へ沈んでいった後、あらかじめ船底に穴をあけてあったボートも静かに陰黒の水底へと水没していった。
***
”ああ…、ユキノ…、愛してる。放さない…”
”ノブト…、私たち繋がった。繋がってる…。永遠なのね…”
”ありがとう、ミワちゃん。ありがとう…”
”ヒロキさん、一緒なのね、私達…”
四肢の一部を欠いたカラダとなった二組のカップルは、薄れる意識の狭間であらん限りの意思と力を以って、強く強く抱き合ったまま深い沼底へ降りていった。
かくして…、陰沼の芯底へ溶け込んだ4人の男女によるその深い念は団塊と化し、死の直前に切断した4つの四肢を幽媒体として黄泉がえりの意思を現出させることとなる…。
それは4つのカタマリとなって、ついに旅立ちの時を迎えようとしていた。
彼らのおぞましく陰極まる”儀式”の舞台となる陰沼は、この夜、深い霧に覆われていた。
深夜2時前…、決死の覚悟を共にした4人の男女は、手漕ぎボートで沼のほぼ中央にいた。
「…じゃあ、オレは左腕を切る」
「私は左足を…」
「オレは右足…」
「私は右腕ね…」
4人は輪になって、小声でそう確認し合った。
「まずは、この睡眠薬を3人が飲んでくれ。オレは30分後に服用する。君らが眠りについたら、電動で各部位を切断し、オレも…。その後、土嚢袋へ石と一緒に詰め、沼へ沈める。間髪入れずに、この鎖でつないだ4人のカラダはこのいかりで沼底へ…」
「…」
浦田ノブトの短い説明に、ほかの3人は無言のまま、静かにうなずいた。
4人を包む静寂の中、彼らの息継ぎは確かに発せられていた。
この世を生きるには欠かせない心臓を巡らせる証…。
だが、間もなくこの4人の若い気男女には、おぞましい憎念と真逆の純朴な希望とを交じり合い、究極の絶命行為にもう迷いなど存在しなかった。
***
「…我々が挙行を終えた後の次第は、堀切さんにお願いしてある。彼女がリバイアサンズの主旨を以ってコトを運んでくれれば、あとはいい。きっとこの世は変わるよ。人類をだまし続け、搾取したクソなエゴスキームは消去する。それに入れ替わり、新しい光が生まれる…」
「その一助となるのね、私たちの今夜の血行は…」
「そうさ。まさしく己の血にまみれ、言語に堪えない痛みと苦しみに貫通されながら、団塊となる。4人は肉体を切り離した、ゆるぎない永遠の意思を合体させるんだ」
「それは最強のものになるわね」
「ああ、4人で願おう。いや、願い続けよう…、この沼底で」
「そして甦るのねよ、団塊となって…。新たな肉体の一部を偽善者たちから奪取して…」
ここで4人は湖畔の四辺井戸がある方向へ顔を向け、霧に閉ざされた闇間にしばし視線を送った。
***
「ぎゃーー‼」
「うぉーー‼」
「ぎゃああ~~‼」
午前2時20分過ぎ…、狂った儀式は濃霧に目隠しされるように、大量のどす黒い血で闇を塗りたくり、阿鼻叫喚の中、ある種の厳粛さを伴って決行された。
”ジャポーン…!”
そして…、4人がその肉体を倍の数にして沼の中へ沈んでいった後、あらかじめ船底に穴をあけてあったボートも静かに陰黒の水底へと水没していった。
***
”ああ…、ユキノ…、愛してる。放さない…”
”ノブト…、私たち繋がった。繋がってる…。永遠なのね…”
”ありがとう、ミワちゃん。ありがとう…”
”ヒロキさん、一緒なのね、私達…”
四肢の一部を欠いたカラダとなった二組のカップルは、薄れる意識の狭間であらん限りの意思と力を以って、強く強く抱き合ったまま深い沼底へ降りていった。
かくして…、陰沼の芯底へ溶け込んだ4人の男女によるその深い念は団塊と化し、死の直前に切断した4つの四肢を幽媒体として黄泉がえりの意思を現出させることとなる…。