陰黒のプシュケ

深い闇にさらわれて

”でも、ある一瞬を境にその声の聞こえ方が変わった…。おかあさんと妹逹の会話はそのまま続いてるのに、急に声が違っちゃったんだよ!”

それは不思議な感覚であった。
談笑する3人の声は、実際に言葉の走端まではっきり聞き取れるのに、その声はとてつもなく遠くから届いている感じだったのだ。

穂里恵のウトウト状態は長らく続いた。
いや、本当のところは眠っていたのだ。
時間感覚としては、数時間…。
少なくとも、20分や30分ではなかった。

要するに、彼女の”感覚”では、ずっと通常の睡眠には入っていなかったのだろう。
その間は絶えず、テレビから流れていたバラエティー系番組の音声、そのテレビを見ながら笑いを交えた妹二人と母の弾んだ会話が耳に届いていたのだ。

そして、その聞きなれた家族の日常会話が途切れた時、瞼が開いた…。
すると、瞼の下の両眼は底なしの深い闇に覆われていた。
要は、そういうことだった…。





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