陰黒のプシュケ

降り立つ血臭

”４人だ！…絶対死んでるよ〜、この人たち…‼”

”男の人と女の人、二人ずつだ‼それに、血だらけだよ、みんな…。

”クサい！たまらないこの腐臭…、血が腐った臭い…。えっ？この４人…、ひょっとして…⁉”

自由を奪われた状態の穂里恵は、その恐怖感から皮肉にも”彼ら、彼女ら”いずれもが、すさまじいばかりの出血を伴う阿鼻叫喚を以って自分に向けて何かを訴えているコトを察知する…。
彼女には、おぞましいばかりの眼前の素姿を透視できてしまったのだ。

それは、視覚とともに突然の訪問者（誘拐犯？）から自由を残された嗅覚によって、立体的掌握をもたらされたということでもあった。

そしてその結論こそ、これ以上ない程の望まざる推論だったのはいうまでもない…。

＊＊＊

”勘弁して～～‼あなたたち…、手足、一本ずつないじゃん‼”

そう、まさにそういうことであった！

招かざる訪問者、もしくはこの純真無垢な少女に対し理不尽極まる拉致を敢行した不浄の極限霊たちは、己らが発するあらん限りの苦悶の体、叫びを極めて効率よくパフォーマンスしていた。
その芸はまさしく、指かかとまで届かんとばかりの最なる細やかさも事欠かずに…。

穂理恵が眼破した４体による死霊の降業は、その種の”訴え”という域レベルでは頂上であろう生晒し画と断ずるに値したのだから。

だが、そのおぞましき浮遊体は、ここでとどまらなかった。
なんと、おぼろげな陰黒の闇空間は、さらに劇的な変体を遂げ、２層転化を起こす。

”ゲボゲボゲボ…”

穂理恵は、頭のてっぺんからつま先まで固まっていながら、その抱く嫌悪のカンカクのみで、こともあろうに仰向けでの金縛りという状態で嘔吐してしまった。

その汚物は闇に溶けることなく、あいまいな黒という扁平空間へと吸い消されると、４体の死霊たち（？）は更なるハイテンションで高い呻きをあげていた…。