愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 おもむろに唇が離れ、口の端をぺろりと舐められた。

「愛理の舌は、温かくて柔らかいな」

 続けて唇を舐めとられ、羞恥心も相まってなんて返せばいいのかわからない。頬に熱がこもるのを感じていたら、彼の手が服の裾から滑り込んできた。

「あっ」

「ここも……全身温かくて柔らかい」

 骨張った手が肌の感触を確かめるように無遠慮に触れていく。紘人の手も十分に温かい。首筋に彼の鼻先が押し当てられ、思わず身をすくめた。

「いい匂いがする」

 吐息が肌にかかってくすぐったい。それと同時に体の奥が疼いて意図せず悩ましげな息が漏れた。紘人は顔を上げて私と目を合わせ、真っすぐな眼差しを向けてくる。

「今すぐ愛理が欲しいんだ」

 艶っぽく低い声で訴えかけられ、目が逸らせない。やああって、私は小さく答える。

「だめ」

 一瞬彼の瞳が大きく揺れ、その様子にぎこちなく続ける。

「ここじゃ……だめ」

 私の返事に、打って変わって紘人は嬉しそうに微笑んだ。

「了解」

 そう言って彼が私を子どもみたいに抱き上げる。足が床を離れて視線が高くなり、それでも下手な抵抗を見せず紘人にしがみついた。

「愛理との時間が欲しくて今日の作業を頑張ったって言ったら?」

 茶目っ気混じりに声をかけられ、彼にしがみついている腕の力を緩めて彼を見下ろす。続けて素早く彼の唇に自分の唇を重ねた。

「ありがとう……ご褒美」

 照れそうになるのを必死で抑えて、彼と同じで軽い調子で返す。引っ越し作業のためとはいえ、久しぶりのふたりきりで意識していないわけではなかった。
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