愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 他の同期にも声をかけていると言われ待ち合わせ場所に行くと、彼の職場の同僚も何人かいて、その中に愛理はいた。

「はじめまして、土本愛理です」

 偶然、近くに座った愛理はこちらに律儀に挨拶をしてくる。派手さはないが化粧も服も上品な雰囲気で、少し会話をすると彼女の聡明さがすぐにわかった。

 恋人の有無などはまったく尋ねられず、こちらに対する下心も微塵もない。弾んだのは主に仕事の話で、社会人になって真面目にアドバイスを求めてくる愛理がなんだか微笑ましく思えた。

「つらいのはわかるけれど、馬鹿言ってないで。今すぐじゃなくてもいつか彼女よりいい人見つけて、幸せになろうよ! それが一番の復讐だよ!」

 ところが、浮気された後輩に彼女がかけた言葉で黒い感情がふっと沸いた。KMシステムズの情報を集め、いつか自分にされたことを明るみにして復讐してやると誓っている俺自身に言われたような気がしたからだ。

「土本さんって……お人好しなんだね」

「えっ?」

 自分でも驚くほど冷たい言い方になった。なにをむきになっているのか。けれど、止められない。

「実際に裏切られたら、そんな簡単に前向きには考えられないよ?」

 彼女みたいな人間にはわからない。わかるはずがない。初対面のしかも年下の女性に八つ当たりもいいところだ。

「そう、かもしれません。でも前を向くのにも、恨み辛みに支配されるのにも同じだけ時間を使うなら、私は前を向いて変えられない過去を嘆くより、今や未来を大事にしていきたい。そう思います」

 ところが、愛理は下手に同調や反論もせず自分の意見をしっかりと返してきた。そこには実感がこもっていて、わずかに虚を衝かれる。
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