愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「愛理ちゃん、いい子だな。大事にしろよ」

　数日前に信二さんに愛理を紹介したら、彼も愛理を気に入った様子で俺に告げてきた。

「言われるまでもありませんよ」

　軽く返したつもりだが、不意に信二さんは真剣な表情になる。

「お前、気づいていないのか？　愛理ちゃんと付き合いだして多少マシにはなったが、ときどきすげー怖い顔してるぞ」

「そう、ですか？」

　彼の意外な指摘にわずかにうろたえる。とはいえ愛理の前ではそんな顔はしていないつもりだ。しかし曖昧な部分を見透かしたように信二さんは続ける。

「一緒にいる時間が長くなるほど、そういうのはわかるんだ。愛理ちゃんを不安にさせるなよ。愛理ちゃんは、KMシステムズとの一件、知らないんだろ？」

　愛理に話す必要はない。これは俺の問題なんだ。一方で、過去にこだわる俺を愛理はどう思うだろうか。軽蔑されるかもしれない怖さもあった。

　彼女があまりにも前向きで、一緒にいると復讐などどうでもいいような気さえしてくる。

「大丈夫です」

　そうだ。うまくやっている。KMシステムズの情報や伝は十分にそろってきし、俺と愛理の間に大きな問題もない。

　どこかでそうやって必死に言い聞かせている自分もいた。

「紘人、KMシステムズからされた仕打ちは本当にひどいものだし、恨むのもわかる。復讐したいと思うのも。けどな、過去ばかり見て執着していたら、今目の前にあるものを取りこぼすぞ」

　信二さんのこの言葉の意味を俺は後になってから嫌というほど思い知る。
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