愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 彼は五十嵐(いがらし)紘人。私より四つ年上の二十八歳で、付き合ってそろそろ半年になる。普段はワックスで整えている暗めの茶色い髪は、今は下ろされ幾分か幼い印象を受ける。無防備な姿が嬉しくて、つい笑みがこぼれた。

「どうした?」

「うん。見惚れていたの」

 私を見下ろす彼に臆面もなく答えた。

 ぱっと目を引くわけではないけれど、彼の顔の造形は十分に整っている。奥二重のおだやか目、すっと通った鼻筋に薄い唇。細いフェイスラインはシャープで、クールな印象を抱かせる。

 第一印象もどこか冷めた感じだったのに、意外とよく笑って、付き合ったらこんなに大事にされるなんて思いもしなかった。

 ゆるやかに顔を寄せられ静かに目を閉じる。ベッドがわずかに軋んだのと同時に唇が重ねられた。

「んっ……」

 触れた唇は柔らかいけれど少し冷たく感じた。すぐ離れると思ったのに、軽く食まれて巧みに誘導され、薄く口を開くと口づけは深いものになる。

「んぅ……う…ん」

 滑り込まされた舌に応えるべきか拒否すべきか迷っている間に、彼によって口内を蹂躙されていく。

「ん……ね……もぅ」

 終わるよう訴えかけても口を塞がれて言葉にならない。漏れるのは甘ったるい声だけだ。体勢からしてこちらに分が悪いのは明らかだ。なにより私自身、本気で拒めない。

「愛理」

 キスの合間に艶っぽく囁かれ、まるで命令されたかのように抵抗する気がなくなる。
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