愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 彼の元へ近づき、普通に会話しようにも心臓はドクドクと音を立てリズムも速い。真紘がいない分、手持ち無沙汰と気まずさで戸惑う。 

「あ、コーヒーでも淹れようか?」

 閃いたと言わんばかりに彼に背を向けようとしたそのときだった。

「愛理」

 腕を掴まれ、真剣な眼差しの紘人に目を見張る。彼はそのまま立ち上がると真正面から私を見下ろしてきた。

「ごめん。別れたときも真紘のことも、全部ひとりで悩ませていたんだな」

 紘人はつらそうに顔を歪ませる。 

「謝らないで。私が……私が勝手に」

 続きは彼に抱きしめられたおかげで途切れてしまった。

「愛理、さっきも言ったけれど結婚しよう」

 会社で再会したときにも言われた。ただ、それは紘人が真紘の存在を知ったからで……。 

「そ、そんな。子どもがいるからって無理に」

「それだけが理由じゃない。愛理が好きだから言っているんだ」

 腕の中で身動ぎしながら反論する私に対し、紘人ははっきりと言いきった。回された腕の力が強められ、懐かしい感触と揺れ動く感情に視界が滲みそうなる。必死で堪えるため、逆に紘人の胸に顔を押しつけた。

「だって私の父は……KMシステムズの社長だった柏木清志なんだよ? 私は彼の娘で真紘は父の」

「わかっている」

 ぎこちない私とは対照的に紘人の声は落ち着き払っている。優しく頭を撫でられ、震える唇を噛みしめた。
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