愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「でも」

 とっさに言い返そうとしたらキスで唇を塞がれる。

「反論は聞かない。もう離さない」

 言うや否や再び口づけられ、拒否どころか返事さえできない。

 懐かしい唇の感触に目眩を起こしそうだ。唇を引き結んで拒もうとするが、紘人はかまわずに角度や触れ方を変えながら唇を重ねていく。

 久々の口づけはあの頃と変わらず、甘くて心地いい。下唇を軽く食まれたあと唇の隙間を舌先でなぞられ、反射的に唇の力を緩める。

 それを紘人が見逃すわけもなく、彼の舌が口内に差し込まれ、硬直している私の舌を舐めとった。

「ふっ……」

 とっさに腰が引けたが、逃がさないと言わんばかりに回されている腕に力が込められ、さらに彼と密着する体勢になる。もう片方の手が頬に添えられ、彼はキスを続けた。巧みに舌をからめとられ、翻弄されていく。舌も吐息も全部熱い。

「愛理」

 わずかに顔を離してキスの合間に懇願するような低い声で名前を呼ばれる。その瞬間、私の中のなにかが切れて、気がつけば自ら応えるように舌を差し出した。

「んっ……ぅん」

 急に積極的になって、あきれられてしまうかもしれない。でも、閉じ込めていた想いがあふれ出す。

 大好きだった。ずっと一緒にいたかった。叶わないとわかったあの日に、全部捨てないといけなかったのに。

 真紘を授かって、たった一度だけ連絡を迷った。けれど結局、行動できなかった。会うのが怖くて、でも会いたくてどうしようもなくて。
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