愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 ぴちゃぴちゃと音を立てて口内を刺激されていき、息をするタイミングが相変わらず掴めない。それでもなんとか従順な姿勢を見せると、紘人はキスをしながら目を細めた。その表情がよく知る彼のもので、安心と同時に視界が涙で歪む。

「ふ……っ、んっ」

 舌を伝って混ざり合う唾液と吐息が、媚薬みたいに私の体の力を抜けさせ、意識を朦朧とさせていく。どうしよう。溺れそう。

 彼の厚い舌が歯列を丁寧になぞり、舌先を軽く吸われた。その刺激にびくりと背中が震える。

「ん。可愛い」

 唇が離れ、息があがっている私とは対照的に紘人は余裕たっぷりだ。逆に私は唇と共に口の端も濡れていて、なんとも締まりのない格好に指先で拭おうとしたらその前に彼に舐め取られる。

「ひゃっ」

 思わず変な声が漏れてしまう。とっさに離れようとするも、体に回された彼の逞しい腕がそれを阻んだ。冷静になると、キスに応えてしまった自分が情けなく、居た堪れない。

 まともに紘人の顔が見られずにいたら、今度は額に口づけを落とされた。驚いて目線を上げたら、情感あふれる眼差しの彼と目が合う。

「もっと愛理に触れたい」

「こ、これ以上は……だめ」

 色めいた表情に目を奪われたが、すぐに冷静になって答える。キスの余韻が残っているのは私も同じだけれど、純粋に受け入れている場合じゃない。

 とはいえ、このまま紘人に強く迫られたら許してしまいそうだ。それを知ってか知らずか、私の精いっぱいの虚勢に、紘人はふっと表情を緩めた。
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