愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「そうだな。まずはこれからについて話そう。ひとまず愛理のお母さんが戻ってきたら挨拶をしたい」

「挨拶?」

 さっき紘人と入れ違いで母が出ていったのを気にしているのだろうか。

「結婚のだよ。これからについても話したい」

 私の思考を読んだ紘人がさらりと答えた。目をぱちくりさせ彼をじっと見つめると、紘人は私の左手をそっと取る。

「とりあえず愛理と真紘は俺のマンションに引っ越してきてほしいんだ。一緒に暮らそう。必要なものはこちらで全部用意するし、もちろん愛理の希望も聞く。なんなら」

「ま、待って」

 話を進める紘人を慌てて制する。すると彼は不安と不満が入り混じった顔で眉尻を下げた。

「嫌なのか?」

「違うの。その、急すぎて……」

 実を言うと、荷造りなどの引っ越しの準備はある程度していた。崎本さんと結婚したら、私と真紘はこのアパートを出る予定だったから。もちろん私が引っかかっているのはそこじゃない。

「まだ信じられないの。今、起こっている出来事が」

 正直な想いを吐露する。あんな別れ方をした彼と再会して、てっきり恨まれていると思っていたのに、まさか結婚を申し込まれるなんて。まったく予想もしていなかった事態だ。頭が追いつかないのも無理はない。

 紘人も自覚があるのか、前髪をくしゃりと掻いて息を吐いた。
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