愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「俺もだよ。だからこそ早く夢じゃないって実感したいんだ。真紘のこともある」

 真紘の件を持ち出されるとなにも言えなくなる。私だけの判断で真紘から父親を、紘人から父親になる権利を奪ってしまっていた。

「なにより、もう愛理を手放したくないんだ」

 黙りこくっている私に紘人は力強く続ける。再び抱きしめられ、堪えていた涙が一筋頬を滑った。

 どうしよう。許されたと思っていいの? 私はまた彼のそばにいてもいいのかな?

 ホッとしたようで、まだ胸騒ぎが治まらない。けれど紘人の腕を今度は振りほどけなかった。


 帰ってきた母に紘人は真面目に挨拶し、結婚を承諾してほしいと告げた。あまりにも彼が真剣に告げるので頭を下げられた母の方が狼狽える。

 真紘の父親について母に話していたが、あまりの偶然と巡り合わせに驚きながらも最後は紘人との結婚について背中を押してくれた。

「よかったわね、愛理」

 崎本さんのときとはまったく違う嬉しそうな母の表情に、これでよかったんだと考える。続けて紘人から一度会社に戻る旨を告げられ、玄関まで彼を見送った。

「ごめん。仕事大丈夫?」

「ああ。今日は突然押しかけて悪かった」

 そう答えて、靴を履き終えた紘人がくるりとこちらに振り返る。

「でも、愛理に会えてよかった」

 嬉しそうに微笑まれ、そっと頭を撫でられる。

「……また会いに来てもかまわないか? できれば明日も」

 続けて遠慮気味に尋ねられ、私は大きく頷く。
< 39 / 123 >

この作品をシェア

pagetop