愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 真紘は指差ししたり、本の仕掛けに手を伸ばしたりして、それを紘人がサポートしてやる。親子としては、まだお互いに微妙な距離があるが、それでもふたりのやりとりになんだか温かい気持ちになった。

 こんな日が来るなんて思いもしなかったな。お湯が沸き、カップを温めている間に、コーヒーの準備をする。

「愛理」

 名前を呼ばれて視線を遣ると、真紘が座っている紘人の肩に手を置いてつかまり立ちをしていた。

「すごいな。もうすぐ歩けそうじゃないか?」

「うん。最近はそうやってなにかと立とうとするの。まだバランスが不安定だから、見ているこっちがドキドキしちゃうんだけどね」

 何度かバランスを崩して頭を打ったこともあるが、真紘はめげずに立ち上がろうとする。誰かに教えられたわけでもないのに本当にすごい。

「あっ、あーあ!」

 当の真紘はとてもご機嫌だ。よく声も出て笑顔も眩しい。ついでに口の端から光るよだれが垂れているのもご愛敬だ。紘人のシャツに皺が寄るほどぎゅっと握りしめている。

「ごめん。今、真紘よだれがひどくて、シャツ汚すかも」

 近くに置いてあるタオルで真紘の口元を拭うように頼んだ。

「抱っこしてもかまわないか?」

「もちろん」

 答えると紘人は慎重に体の向きを変えて、自分に掴まっている真紘をそっと抱き上げた。真紘は嫌がる素振りを見せず紘人に体を預けおとなしくしている。

 その目の前の光景になんだか胸が熱くなった。
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