愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「いない」

 ふと耳に飛び込んできた声に目を瞬かせ、意識を彼に戻す。

「いないよ。俺も愛理だけなんだ。昨日も言っただろ、ずっと忘れられなかった」

 視線が交わると、紘人は私の頬を愛おしげに撫でた。

「絶対結婚させなかったけれど、昨日愛理が結婚する予定だったって知ったときは、はらわたが煮えくり返りそうだった。だから今……愛理の気持ちを聞いて正直、すごく嬉しい」

 言葉通り嬉しそうに言ってから、彼はふいっと視線を逸らした。

「って、我ながら現金だな」

 照れくさそうにする紘人の顔がなんだか懐かしくて、愛しさが込み上げてくる。次の瞬間、体が自然に動いて彼の頬に唇を寄せていた。

 驚いた紘人と至近距離で目が合い、どちらからともなく唇を重ねる。

 昨日とは違い、彼に従順な姿勢を見せた。上唇と下唇をそれぞれ食むように口づけられ、軽く音を立てて吸われる。焦らすような甘いキスだ。

 触れるだけの口づけに物足りなさを感じていたら、そのタイミングで深く求められる。

「んんっ……」 

 舌を絡め合い、吸って吸われてを繰り返す。かすかにコーヒーの味がするのは、紘人のせいだ。

「ふっ……ぅ……ん」

 唇を重ね、舌を触れ合わせているだけなのに、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。口内を余すことなく懐柔されて、程よい息苦しささえ心地いい。全部、相手が紘人だからだ。彼以外の人となんてやっぱり考えられない。
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