愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「すごい荷物だな」

 リュックタイプのマザーズバッグを見た紘人が漏らす。出産祝いに親友の彩子(あやこ)からプレゼントされ、ブルーグレーの鞄は機能性とデザイン性を合わせた優れものだ。

「あ、うん。真紘の着替えとかおむつとか、あとおやつに飲み物も」

 子どもを生んでから、子連れで外出するハードルの高さを思い知った。すべてが必要ではないかもしれないが、いろいろと想定するとついあれもこれもと荷物が増えてしまう。このリュックは重宝していた。

 真紘をチャイルドシートに乗せ、私はその隣に座った。彼の車は付き合っていたときと同じもので、あの頃は助手席が私の定位置だった。不意に思い出がよみがえり、懐かしさにどぎまぎする。

 不思議。付き合っていた頃、かすかに紘人との未来を願望混じりで思い描いたりもした。そんな未来がはっきり来ないとわかって絶望してから、こんな日が来るなんて。

 真紘は慣れないチャイルドシートと車にあたりをキョロキョロ見回している。けれど機嫌はよさそうだ。

「愛理」

「なに?」

 運転する紘人に呼ばれ、私の意識は真紘から彼に向いた。

「両親に愛理と真紘のことを話したんだ」

 彼の切り出した話題に心臓が跳ね上がる。おかげで声が上擦った。

「う、うん」

「今すぐにでもこちらに赴いて挨拶したいって言い出すから、ひとまず愛理や愛理のお母さんの都合を聞いてからだって伝えてある」

 結婚するなら両家への挨拶は必須だ。紘人の実家は県外なので、いつ伺うべきなのか紘人に聞いてもらおうと思ってはいたけれど、まさかの展開だ。
< 53 / 123 >

この作品をシェア

pagetop