愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました

第四章 たったひとつの私の恋が

 動物園に行った数日後、紘人の仕事が空いた平日の夕方に父の元を訪れるのが決まった。紘人の行動力には驚かされてばかりだ。

 母の出勤する時間と重なったので、真紘も連れていく。実の父とはいえ結婚の挨拶なので、いつもよりはお洒落をして綺麗なワンピースを着た。

 父には真紘の父親について話していない。しかも崎本さんと結婚すると伝えていたのに、こんな展開となり父はなにを思うのか、なにを言われるのか。それとも情報はもう回っている?

 父は紘人にどんな言葉をかけるのだろう。

 想像しただけで不安になり、昨日は真紘の夜泣きもあってろくに眠れなかった。

 紘人とはKMシステムズで待ち合わせている。会社に来るのは、崎本さんとの一件があって以来だ。

 緊張する私とは対照的にベビーカーに乗った真紘はご機嫌で、会社の前で紘人に電話しようとバッグからスマホを取り出す。

「愛理さん?」

 そのとき不意に名前を呼ばれ、声の主を探した。 

「江藤さん」

 反対方向から会社に向かってこちらに歩いていたのは、江藤秀美さんだ。淡い紫色のパンツスーツを身にまとってヒールの高さも合わさり、彼女のすらりとしたスタイルの良さがよくわかる。

「こんにちは。五十嵐さんと待ち合わせですか?」

「はい」

 にこやかに微笑まれ、正直に頷いた。

「私も彼に会いに来たんです。直談判するために」

「直談判?」

 しかし彼女の口からはあまり穏やかではない単語が飛び出した。
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