愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「予定通りだと思ったら、まさか元恋人だったなんて。子どもがいるのもそういう理由なんですね。あなたとの結婚に固執するのも納得です」

 江藤さんと会ったときに、真紘の存在に驚いていたのも、紘人が新社長に就任する感想を私に求めたのも、全部事情を知っていたからなんだ。

「あなたはお父さまがしてきたことをご存知なのかしら? これ以上、彼を苦しめるのはやめてあげてください。別れたときも一方的だったみたいですし、自分が一番大事で彼を優先できないのなら、子どもがいても結果はまた同じになるんじゃないかしら?」

 最後の最後で痛いところを突かれる。そこで江藤さんと目が合い、ある記憶がよみがえった。

 紘人と別れたあの日、彼女は紘人と一緒に並んで歩いていた女性だ。あの日、彼は彼女に会っていたんだ。唇を噛みしめて江藤さんを見ると、彼女はにこっと微笑んだ。

「五十嵐さんに訴えたかった内容はあなたにお伝えしましたから。彼にどうぞよろしく」

 そう言って、彼女は颯爽と去っていく。私はしばらくその場から動けなかった。

「まー」

 そこでベビーカーに乗っていた真紘がメッシュのシェード越しに私をうかがっていることに気づく。無垢な瞳に見つめられ、真紘に心配をかけてはいけないと思った。

「愛理」

 そのとき会社の玄関から紘人が現れ、無意識に背筋を正した。彼の表情は心なしか険しい。

「悪い。どうしてもはずせない案件が入って、このあと柏木社長のところに行くのが難しそうなんだ。土壇場で本当に悪い」

「うん」

 紘人の目がまともに見られず、わざと視線を逸らして小さく頷いた。
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