愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「柏木社長には俺から連絡しておくからって……愛理?」

 不思議そうに彼に呼びかけられるが、うまく答えられない。どこかで今日の約束がキャンセルになって胸を撫で下ろしている自分がいた。

「どうした? 大丈夫か?」

 心配そうな彼の様子にフォローしなくてはと思う一方で、気を抜いたら紘人を質問攻めしそうで怖い。

「うん」

「少しなら時間があるから、アパートまで送っていく」

「平気。そこまで遠くないし」

 あれこれ考える間もなく、彼の申し出を即座に断る。突然の私の勢いに圧されたのか、戸惑っている紘人に早口に続けた。

「本当に大丈夫だから。紘人は仕事に戻って。またね」

 さっさと踵を返す。こんな可愛げのない態度をとってどうするのか。ましてや真紘もいる。私はともかく真紘と少しでも一緒に過ごしたかったのかもしれない。

『自分が一番大事で彼を優先できないのなら、子どもがいてもまた結果は同じになるんじゃないかしら?』

 江藤さんの言葉が鋭い棘となって突き刺さったまま抜ける気配がない。

 繰り返したくない。紘人を大切にしたいのに。

 父に対して、やはり紘人はずっと事実を明るみにして責任を取らせるための準備をしてきたんだ。その覚悟は、私もしていた。止めようとは思わない。

 けれど江藤さんの言うように、それをやめると言い出したのだとしたら……。

 私のせい? それとも真紘のため?

 どっちにしても、私が原因なのは間違いない。

 勝手に許された気になっていた。でもそれは大きな間違いだったんだ。
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