愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 それから紘人は仕事で遅くなる日々が続き、うちに顔を出すのも難しい状況が続いた。社長として正式な就任は四月からとはいえ、それまでにこなさなければならない用件はたくさんあるのだろう。

「それでね、真紘ってば、今日もひとりで手を離して立っていたんだよ」

『コツをだいぶ掴んできたんだろうな』

 会えない分、電話はするようにしていた。真紘が起きていたらテレビ電話にして顔を見せる。きっと紘人も真紘に会いたいだろうから。

『愛理は?』

「え?」

 そこで彼からの質問に目を瞬かせる。電話の向こうで紘人が苦笑したのが伝わってきた。

『真紘の話はよくわかったよ。それで、愛理はどうだったんだ?』

「私は……いつも通り。普通だよ」

 こちらの意図に気づかれたのかとドキリとする。紘人に伝えるのは、真紘の話ばかりで私自身の話題には極力触れないようにしていた。

 前はもっと育児の不安や自分の気持ちなども聞いてもらっていたけれど、それをためらうようになってしまった。紘人が知りたいのは真紘の様子で、私の話に付き合わせてもいいのか。

 江藤さんに会ったあの日からずっと、どこまで紘人に寄りかかっていいのかわからないでいた。

『なんか元気ないな。疲れてないか?』

「大丈夫!」

 紘人に私のことで余計な心配をかけさせるわけにはいかない。

『一緒に住んだら、もっと真紘の面倒を見るよ』

「……ありがとう」

 どこまでも優しい彼に涙が出そうだ。私じゃなくても、きっと彼は結婚相手をこんなふうに大事にしたんだろうな。そう考えるとますます目の奥が熱くなる。

 私は意を決した。

「紘人」

『ん?』

「あのね。今度お母さんに真紘を見てもらうから……ちょっとふたりでゆっくり話したいの」

 江藤さんから聞いた件を切り出して、紘人の本音をちゃんと聞きたい。

『それは有り難いな。贅沢かもしれないけれど、俺も愛理とふたりで過ごす時間が欲しかったんだ』

 決死の申し出に、紘人はどこか嬉しそうだ。江藤さんから聞いて全部知っているって言ったら、彼はどんな顔をするだろう。想像すると怖くて体が震える。

 でも、もう事実を知ったからって紘人から逃げたりしない。同じ過ちは繰り返さない。
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