愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
「探した。ずっと会いたかった」

 気づけば彼の腕の中にすっぽり収まっていて、予想だにしない状況に頭が混乱する。慌てて彼から離れ、落としたスマホを拾った。

「私、は」

「なにをしているんですか?」

 冷たい声が割って入り私と紘人の注意もそちらに向く。エレベーターの方から現れたのは約束をしていた崎本さんだった。いつもより険しい表情にすぐに謝罪の言葉を述べようとする。

「ああ。早くも社長のご息女に挨拶ですか? でも彼女にまで取り入る必要はないと思いますよ」

 先に彼に早口で捲し立てられたが意味が理解できない。崎本さんの言葉は私ではなくどちらかといえば紘人に向けられていた。続けて彼の視線がこちらに向く。

「愛理さん、残念ながら結婚の話はなかったことにしましょう。あなたと結婚しても私が社長の後を継ぐ可能性は極めて低いようなので」

「え?」

 唐突な宣言に目を丸くする。そんな私に対し、崎本さんは苛立ちを露わにした。

「わかりませんか? 社長を一番そばで支えてきた私が後継者になるために、周りを納得させるには社長の娘であるあなたとの結婚が必要だったんです」

 あまりにもあけすけな言い方に少なからず動揺する。しかし崎本さんはまったく気にせず鼻を鳴らした。

「でももう意味ないですから。うちはRADソリューションに友好的買収をされ、役員たち合意のもと、そこにいる五十嵐紘人氏が新社長に就任するのが決まったそうです」

 足元がふらつきそうになる。まさかこんな事態になるとは思っても見なかった。父はどう受け止めているのか。ますます紘人の顔が見られなくない。 
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