愛されてはいけないのに、冷徹社長の溺愛で秘密のベビーごと娶られました
 紘人とふたりで会いたいと話したものの忙しい彼には無理難題だったかもしれない。

 仕事の合間を縫って私や真紘への毎日の連絡はもちろん、ご両親と母の都合をつけて会う段取りや、父の病院に行く予定を再度立て直したりするなど結婚に向けての話も進めてくれている。

 私が紘人にできることってなんだろう。

「真紘、お散歩行こうね」

 今日は天気もよくて過ごしやすい。真紘をベビーカーに乗せて近所の公園へ向かう。もうすぐ新年度になるので新生活や進級進学フェアがあちこちで行われていて春一色だ。

 真紘の保育園用品も揃えていかないとな。

 そのとき軽い立ちくらみに見舞われ、足元がふらつきそうになる。ここ最近の寝不足が原因かもしれない。紘人の件でどこか揺れている私の気持ちが伝わっているのか、なんとなく真紘も不安定で夜中に泣いて目が覚める回数が増えた。

 こうして少しでも日中、太陽の光を浴びて夜しっかり眠れるように生活リズムを整えないと。

「真紘……ごめんね」

 つい罪悪感から謝罪の言葉が衝いて出る。真紘のためを思うなら、なにも知らないふりをして紘人と結婚して家族になるべきなのかな。

 突きつめて考えても正解が出せない。

 ぼうっとしていると、横断歩道の信号が青になっているのに気づく。注意散漫になっている自分を叱責し、慌てて信号待ちをしていた人たちからワンテンポ遅れ横断しようとした。

 横断歩道に踏み出したそのとき、左折しようとしてきた車がすぐそばまで迫っているのが目に入る。あ、と思った瞬間、なにもかもがスローモーションに見えた。

 とっさにベビーカーを庇うようにして車から遠ざける。悲鳴を上げるようなブレーキの音と体に衝撃を感じて、私の意識はブラックアウトした。
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