悲しみも知らずに
式の夜 東上様から
「好きに暮して貰って良い。
だが、世継ぎはつくる。」
と、言われて
初夜の準備をさせられて
愛情のかけらもなく
ただ、ただ、
痛みに耐え、涙を流し抱かれた。
そんな私に振り向きもせずに
彼は、着替えをして
マンションへと戻った。
毎日、毎日、泣かない日々はなかった。
だが······
ここは···私のテリトリーではない
誰にも知られるわけには
行かなかった。
東上の邸は、
前妻の物で溢れ
部屋の飾り、写真、クローゼットの中
全て花菱財閥の奥様の物で
埋め尽くされ
『ここには、あなたの居場所はないの。』
と、言われているようで
毎日が、悲しくて辛い日々······
だが·····
私は、東上で暮らして行かなくては
いけないのだからと思いながら
一人邸内を回っていると
小高な所に小さな、小さな小屋を
見つけた。
「倉庫かしら?」
東上邸ともなると
倉庫も立派だと
小翔音はおかしくて
笑ってしまった。
東上に嫁いでから
初めて笑った。
笑えた自分が、
また、嬉しかった。
食事や衛が来るときは、
自分の与えられた部屋におり
夜中に倉庫へと行き
少しずつ運んだ寝具で眠る
ハーブも運んだ。
ここだけが
私が私らしく過ごせて
呼吸が出来る。
嫁いできてから
触る気持にならなかった
ハーブにも触り
少しずつ奏でたりしていた。
もちろん、外で。