悲しみも知らずに
衛は、あの日
小翔音から離縁を出されて
言葉が出ずに邸を後にしたが
玄関先から泣き叫ぶ
小翔音の声をきいていた。
俺は····いったい·····
飛鳥以外必要ないなら
初めから
話を聞かなければ
良かったんだ。
いくら低い財閥でも
俺が自由にしてよいわけがない。
彼女にも両親や家族がいるんだ。
寝たきりでも良い
たとえ息をしていなくても
飛鳥が、飛鳥さえ
隣にいてくれたら
それしか·····なかった······
だが、飛鳥を失った·······
自分がどうやって生きてきたのか
どんな風に会話して
どんな態度だったのかさえ
解らなくなっていて
必要以上の会話をする事もなかった。
あれから五ヶ月が過ぎていた
なんとなく仕事が終わった遅い時間に
邸へと戻った。
邸の中は静まりかえっている
飛鳥がいた日から止まっているように
全てがそのまま
装飾も写真も備えつけられた物も
落ち着ける空気だ。
だが、ならなぜ
俺は、マンションにいるんだ
寛げるならここにいれば良いだけ。
自分の気持に疑問を持ちながら
彼女が眠る部屋の前に立ち
静かに開けてみる。
今まで、そんな事したいとも
しようと思った事もないのに。
だが·····
彼女のベッドは向きだしで
寝具はない。
部屋にもだれもいない
飾りつけのクローゼットを開けると
服はかかっていた。
どこだ?
玄関をそっと出て
邸内を見て回る
広すぎる邸を
歩き回る。
これは?なんだ?
と、思う程の小さな建物
入口には、鍵がかかっていた。
回りをゆっくり見て窓から
中を覗いてみると
月の光からかろうじて見えたのは、
寝具に小さくなっている
小翔音がいた。
目を凝らして見ると
ガラクタの上に小さな花が飾られ
ハーブが、ニ台壁に
立て掛けられている。
まるで
自分のテリトリーだと言うように
安心した顔をして寝ている
彼女の顔に
言葉がです。
その場を離れた。