悲しみも知らずに
翌日の朝
「彼女は、何処にいる?」
と、俺が東上邸へと連絡すると
「邸内でお茶を飲まれています。」
と、メイドが答えた。
「そうか。」
と、伝え電話を切った。
午後になり
東上邸へと戻ると
バタバタとメイド達が
動き周るから
「構うな。」と、言い
ぐるりと邸を見回す。
あの倉庫がある近くで
彼女はハーブを奏でていた。
目を閉じハーブの音色だけに
気持ちを傾けているようだ。
悲しみの音色。
そのまま、東上邸を離れた。
それから二、三日に一度
邸に戻り
倉庫を覗く日々が続いた。
俺は、いったい何を
やっているのだろうか
そんな中
「奥様が庭で倒れられました。」
と、連絡を受け
急ぎ帰宅する。
主寝室のベッドに寝かされ
真っ赤な顔の彼女
医師が注射を終えた所だった。
医師に礼を伝えて
病状の説明を訊き
メイド達に支持を出す。
温かな部屋
加湿、換気
栄養、睡眠
もう11月を過ぎているのに
あんな場所で暮らしているからだ。
と、思いながら
彼女をそんな風に
追い詰めたのは
外でもない自分なのだ。
衛は、主寝室で業務を行う。
熱でぼぉっとしているからか
寝たり起きたりを繰り返す
彼女だが
初めは、俺がいることに
怯えたが熱がある人間に
何もしないと思ったのか
何事もないように
寝たり起きたりの日々を過ごしていた。