いつも側に
宏香を抱いたまま支払を済ませようと
「海彩?」と、声をかけられた。
振り返ると高校時代の元カレだった。
お互いの進む進路が違い
別れた彼だった。
「優季( ゆうき )?」
「ああ。海彩の子?」
「うん。宏香と言うの。」
「ああ、かして。
抱いてるよ。支払いするんだろ?」
「うん。ごめんね。
でも、大丈夫?」
「何が?大丈夫だよ。」
と、言うと優季は宏香をひょいと
抱き上げて待合室の椅子に
腰掛けた。
その姿をちらりと目の端に捉えて
海彩は、支払いをした。
丁度業務が終わり帰宅する
時間だった優季が二人を
送ってくれる事に。
海彩は、何度も断ったが
優季は、タクシーで帰さなかった。
海彩と宏香を車の後部座席に乗せて
宏香に自分の上着を掛けてくれて
必要な物がないか訊ねてくれる
優季の優しさに涙がでる海彩。
優季は、後部座席に体を回して
そっと涙を拭いてから
目が覚めた時に宏香が食べれそうな
物を買ってくれた。
車の中は、静かだったが
嫌な空気でも
重たい雰囲気でもなく
海彩は、気持ちが落ち着けた。
だが·····
アパートへの帰り道の
レストランに
芭月が女性といるのを見かけた。
一瞬だったが間違いない。
子供が病気なのに
女の人とあっていないと
いけないのかと
もう、海彩の中では
芭月は、いなくなっていた。